2010/02/19

藤田まこと氏追悼 『役者魂!』を知っていますか?

藤田まことさん急逝の報に接し、ご冥福をお祈りいたします。


世代的に、スチャラカ社員、てなもんやシリーズで育ち、長じて仕置き人もけっこう見ていたし、はぐれ刑事は母親につきあって見ていたし。

晩年、いいお仕事もいろいろなさっていた中で、藤田氏の寿命を縮めたのではないかと思われるドラマが存在したことを、皆様ご存じでしょうか?

『役者魂!』
http://ja.wikipedia.org/wiki/役者魂!

わたしは事情あって、全回録画し、リアルタイムで見ました。
そして、藤田さんがあまりに不憫で、ああ、この方に新しいドラマは来ないだろう…
と暗い気持ちになりました。

その後、映画でいいお仕事をなさって、よかったと思います。

どんなドラマだったのか?

これは単なる「駄作」ではありません。ドラマ史に(黒歴史として)残すべき作品です。

大変長くなりますが、2006年11月にmixiに書いた日記を一部加筆訂正して転載します。



【役者魂!】

えっ。一回目で後足で砂かけてリタイヤしたはずでは!?

そうなんです。なんですがっ。事情(わけ)あって昨日より復活。昼間の再放送、というか「これを見れば今日からでもついていけますよーな今までのまとめ」も見てしまいました。

ある意味。これ、見ておいた方がいいかもしれません。エポックメーキング。二度と巡り会えぬ怪作になるかもしれません。それ以前に間違いなく駄作なのですが、その駄作加減がハンパじゃない。しかも役者はいいところ揃えて、全員熱演好演、だけど超駄作。脚本大崩壊。

大変なことになっております、このドラマ。

もはや脚本の君塚良一氏、何らかの変調を来しておられるか、あるいは『踊る』の功績で誰も文句をつけられない裸の王様になってしまったのか。(※この後君塚氏は舞台を書いたので、あー、舞台に憧れておられたのね、と納得。ちなみにわたくし、君塚さんの昔の作品は大好きです)

主要登場人物は、

・舞台一筋、一本気な老シェイクスピア俳優・本能寺(妻を亡くし子供は独立) 
  (演・藤田まこと)
・天涯孤独、演劇は全く興味も知識もない芸能マネージャー・瞳美 
  (演・松たか子)
この二人が、望まないペアを組まされるところから始まったのであります。

そこに起きる事件。

・本能寺の子だと自称する小学生の姉弟が「おとうさまと暮らせと言われた」と訪ねてくる

・本能寺は『リチャード三世』の演技に納得いかず「幕を開けたくない」と言う 

えーと……この程度?

あとはランダムに。

・本能寺は隠し子発覚で動揺したため、芝居に没頭できず、台詞は投げやりに。なんとその演技が「肩の力の抜けた新境地」「リアルな演技」と大絶賛される。 

あのですね。本能寺は衣装が気に入らないと手縫いで直すほど、愚直なまでに芝居一筋の男。たとえ親が死んでも舞台は精一杯つとめるタイプじゃないんでしょうか? たかが隠し子で、茫然自失のまま舞台に立つなんて……しかももはや妻もなく、子供も独立しちゃってるんですよ。隠し事かどうでもよくないすか? しかもしかもその棒読み演技が怪我の功名で大ヒット、って、『プロデューサーズ』とか数多ある過去の黄金パターン。しかもしかもしかもっ! 本能寺の(藤田さんではありません)演技が、全く絶賛に値しない(爆)!


・重厚(と思ってほしいらしい)な演技について悩む本能寺のリハーサルを見たゲイのスタイリストが一言。「普通にやればいいんじゃないの?」。暗闇に一筋の光。「リアリズムと言うことかね?」。さらに、時代に合わせて台詞や衣装を変えるべきだ、という声も上がり、本能寺のリチャード三世は、ベトコン風迷彩服に銃を持ってリハーサルに登場、ラッパーらしき衣装でラップを口ずさみながらリハーサルに登場、時代劇の侍でリハーサルに登場、最後に一言「なんでワシがこんな格好をしなきゃならんのだ!」  

こっちが知りたいわっ(爆)!


・舞台が赤字だと聞いて事務所の社長は「当日券を売るとかもっと客を入れる努力をしろ」と瞳美に命じる。既に初日が空いてしまった芝居、手っ取り早く客をつかむにはテレビしかない、と、瞳美は生の情報番組に売り込み。情報番組とバラエティの違いがわからないアシスタントの経理くんが間違ってバラエティ番組を取ってきてしまい、コントをやれと言われた本能寺は怒って帰ってしまう。 

怒って帰ってしまった穴はどうするんだろう。本能寺が「くだらない」と怒るコントは、くだらないとかなんとか言う以前のレベル。そりゃテレビ屋はバカもいっぱいいるだろうけど、このステレオタイプは勘弁してくれ。それこそ「コントに出てくるテレビマン」だよ。てゆうかぁ、本能寺、あんたはコントにも出せないほどレベルの低いステレオタイプな「役者」だよぉー!(藤田さんのことではありません。本能寺というキャラクターが、です。本能寺の変じゃなく、本能寺が、変!)。


・夕方のバラエティだか情報番組だか、もはやなんだかわからない番組の「大食いにチャレンジ」コーナーに出演させられる本能寺。怒り心頭。本来ラーメンの大食い対決の所、瞳美が「待ってください!」と登場。その手には本能寺の大好物である大福が。「大福対決にしてください!」。大福なら本能寺が食べてくれると読んだ瞳美。しかし本能寺は戦いが始まっても渋面のまま大福に手をつけない。デブのチャンピオンが着々と食べ進む。……瞳美は叫んだ。

「先生! 演劇が、バラエティに負けてもいいんですかっ!」 

本能寺、猛然と、嬉しそうに、おいしそうに、どんどん食べてチャンピオンを破る。この模様は夕方の帯番組で放送され、センセーションを巻き起こし、劇場には人が詰めかけて大入り満員、万々歳♪


とくにコメントする気も起きませんがあえて書くなら「夕方の視聴率最大5パーセント程度の番組で大食いして、速攻その夜のリチャード三世に客が入るなら、演劇関係者は誰も苦労はせんっ!」。そして、


「先生! 演劇が、バラエティに負けてもいいんですかっ!」 



全身の毛が抜け落ちるかと思いました。

ああー、すごい。すごいぞ『役者魂!』。見続ける体力、わたしには多分ないけど、見られるときは見ておこう。それもできるだけ早い回を見た方がいい。ヘタすると、少しずつ修正して普通の駄作になってしまうかもしれない。あと、子役が無駄にうまく(ごめんね)、しかも大人と違って脚本を素直にそのまま演じているものだから、脚本のアラが見事に浮かび上がり、目も当てられない。これも見物です。また、演劇へのオマージュとかパスティーシュとか言ってほしいであろう、パロディにすらなっていない、それパクリだろ、が演劇好きには一興かも。


このドラマ、本気で役者魂持った役者だらけなんだよなあ……。非正規視聴復活。

※「無駄にうまい子役」、

川島海荷

の幼き日です。うまいに決まってますって!