2010/06/22

最近の#twnovel

【父の日】 
今日は父の日。私のお父さんの楽しみは、テレビで巨人戦を見ながらお酒を飲むこと。ささやかなサラリーマンの楽しみ。そして巨人が負けると母を渾身の力で殴ること。お父さん、今夜のお酒にプレゼント入れるから永遠に巨人の夢見てね。これ、母の日のプレゼントの方がよかったかな。 

【空襲】 
夜中、ぐっすり寝入っていた僕は「オサム!起きろ!空襲だ!」という声に飛び起きた。父が家中を走り回って家族を起こしている。昨日まで寝たきりだった父が!「父さん!オサムだよ、わかる?」。父は目の前の中年男とオサムが結びつかない。遠くにパトカーのサイレンが聞こえる。 

【とりかかれない】 
妻に支えられ、ようやく医者にたどり着いた。もう何ヶ月も家を出ていない。問診などのあと、医師は「とりかかれない症候群ですね」と言った。何かを「する」気持ちはあるが「とりかかれない」病だ。それはつまり「できない」。「何かできることは!」と問うと医者は「生きてます」。 

【お題・襲撃】 
「あたくしの肌?あらいやだ、何もしてませんのよ。50歳に見えない?またそんなあ。本当ですのよ、顔を洗う。それだけですのよ。ええ普通の石けん」。そのとき、開け放した窓から蜂の大群が彼女を襲撃した。塗りたくったロイヤルゼリーの仇討ちであった。 

【お題・スイーツ/昼寝/襲撃/神】 
「あんみつはあんみつだ。なんだスイーツ特集って。帰れ帰れ!ったく、ああいうのを見て襲撃しやがるんだ、ギャルってのがよ。ああー頭痛てえ。ちょっと昼寝するわ」。それっきり爺ちゃんは目覚めなかった。今頃神様に「俺ぁ仏教だ!」って喧嘩売ってるな。 

【同時多発テロ】 
「何!同時多発テロ!」。警視庁に緊張が走った。「どこからの情報だ!」「気象庁です!」「気象庁?」。気象庁では、各地からの異常現象にてんてこまいだった。「山梨で集中豪鰯!」「岡山で集中豪鰺!」。しかし一番多いのは、豪雨のように降り注ぐカエルであった。同時多発ケロ。 

【ネクタイ】 
父の日、娘がネクタイをパパにプレゼントした。安物ばかり締めているパパが見ても、ものがいい。「だめだぞ、無理しちゃ」「大丈夫。絶対似合うから毎日してね」。パパは嬉しくて毎日そのネクタイを締めて出社した。夕方になるとママと娘はパソコンの前でGPSをチェックしていた。 

【籠の鳥】 
「♪籠の鳥とんだ、屋根まで飛んだ、屋根まで飛んで、重くて落ちた」「だから不倫はよしなさいって言ったじゃない」。 

【壁打ち】 
僕には友だちがいない。だから毎日壁相手にボールを投げ、ボールを打つ。壁に跳ね返ったボールを受け、また投げ、打つ。壁を夕日が染める頃、僕はとぼとぼと家路をたどる。投げても投げても、そのまま帰ってくるだけの僕のかわいそうなボール。僕の前に立ちはだかるのは、言葉の壁。 

【素直な人】 
俺だ、小沢だ。そんな情けない声を出すな。電話越しにとって食えるか。…黙るな。そこはつっこむとこだろう。面と向かったって食えないでしょう、とか、食えないのはあなたですよ、とか。…メモするな。今後海外要人と会うときに使える?…とりあえず首洗っとけ。…本当に洗うなよ! 

【でんじろう】 
「ペット いわいでんじろう。ぼくはペットのでんじろうがだいすきだからぼくとおなじなまえをつけました。パパはぼくがうまれたとき、うれしくてうれしくてすきすぎてぼくにおなじなまえをつけました。パパがママとけっこんしたのは、もちろんママのなまえがでんじろうだからです」 

【理論】 
つまりね、簡単に言うと、石橋というのは石と石とが、ぎゅっ、と押し合う、その圧によって弓なりでなりたっているわけ。難しいことは言っても無駄だろうから省くけど計算上そういうことなわけ。その石橋がね、頑丈な石橋が、落ちた、と。そういう歌なんだよ、ロンドン橋というのは。 

【非実在】 
児童ポルノの氾濫が看過できぬ状態となり、ついに政府が動いた。「少年少女の性的イメージはいかん」「まったくさようで」「法律を作れ」「はい」。しかしいざその段になって官僚達は困った。少年少女とは何歳まで?平均寿命1億5千年のトチジ星人は悩む。 


【悪人】 
俺は悪人である。どうだ。どうだと言われても困るだろう。お前に直接悪さは出来ない。俺は所詮2次元の悪人だからな。だから読んでるお前が気持ち悪くなることをいっぱい言ってやる。覚悟して読め!さあ…ウンコ!…なんだその半笑いは。オバケ!…おい、嫁を呼ぶな。二人で笑うな! 

【漫画家の弟子】 
僕は中学高校と漫研の部長だった。後輩を連れ迷いもなく和田ラヂヲ先生の門を叩いた。門から家まで5キロあるので、一時間ほど待った。先生は「僕は弟子は取らんのだが」とお定まりの台詞。「先生、筆名を考えて参りました」「何」「和田ラヂヲと暇なスターズ」「役に立たねえよ」。 

【なか卯】 
3日前から何も食ってねえ。ようやく田舎町に入った。この時間にやってる店は少ない。飢えた狼のように眼をぎらぎらさせ、ついになか卯の灯りを見つけた。涙が出た。俺はよろよろとなか卯に入った。「…小うどん」「はい」「と…お前だあーっ!」 

【鉄道研究会】 
大学に入学して迷わず鉄道研究会に入った。「君、乗り鉄?」。先輩が微笑んで聞いてくれたので勇んで答えた。「僕は、終着駅なのか始発駅なのかを決める研究をしたいんです!」。先輩達の顔が凍り付いた。やはりこれが、鉄の中で触れてはいけない永遠の謎か。僕はまた一人旅に出た。 

【忘れてないかもう一人】 
どんぶらこっと。おっと、また言っちまった。「どっこいしょ」って言うんだよな。ついつい昔の癖が出ちまうよ。えーっと、何するんだっけ。あっ、今日も一日署長だ。熊谷だっけか?交通事故防止、犯罪防止、正義の味方のお仕事だ。頑張ろう。え?桃太郎?誰それ。俺一寸法師だけど。 

【記憶】 
記憶は嘘をつく。特に子供の記憶ほど当てにならぬものはない。それは子供が主観的な生き物だからだ。小さな世界で物語を作ってしまう。大人だって似たようなものだ。記憶は嘘をつく。その嘘を点検するのが老後の楽しみだった。が、僕の記憶は嘘どころか嘘どころか、何の話でしたか? 

【今はテーブルマーク】 
母ちゃんが出て行った。親父はパチンコと競馬で帰ってこない。好きなものを食べていい。加ト吉の冷凍うどんをしこたま買い込み、毎日考えたレシピを集めた『ウドンデス中学生』が大ヒットした。父ちゃん母ちゃん、帰ってきて。一緒にうどん食おう。 

【約束】 
若者が駅のホームにじっと立っている。老いた駅員が彼に近よると、若者はすっ、と消えた。「ああ、君か」。十数年前、ここで恋人同士が待ち合わせをした。が彼女は来なかった。彼は東京で結婚して子供もいると風の便り。東京の彼は自分が毎年ふるさとのホームに来ることを知らない。

#twnovel 5月頃

【見合い】
こーん、とししおどしが石を鳴らした。和室の若い二人は、どう会話していいかわからない。「あの」「はい」「いや…」。こーん。「あの」「はい」「僕は、恥ずかしいのですが女性とつきあったことがないんです」「わたしも真面目すぎるって言われてます。今まで、ノンパコなんです」
【二郎】
風呂屋の二郎が煙突のてっぺんに立っている。「おうい、二郎、何しとる」。二郎は仁王立ちのまま風に吹かれている。町内の人々が集まってきた。「おうい、二郎、降りてこい」。二郎は煙突の上から叫んだ。「父ちゃん!母ちゃん!おいら、風呂屋、継ぐよ!」。二郎は面倒な男だった。
【作家】
俺は職人作家。オーダーがあれば何でも書く。本格ミステリから純文学、携帯小説、麒麟の漫才、自伝のゴースト、いしかわじゅんの漫画のゴースト、そうだ、絵だって描く。ネタ枯れやスランプなんて言葉は無縁だ。ただ、ここ数年は新しい仕事は無理だ。広辞苑のゴーストは骨が折れる。
【高い男と低い男】
オレオレ詐欺のニュースが終わった。「お疲れさん。次はTBS?」「はい、でCXです」「君達しかいないからね」。二人の男は頭を下げ、急ぎ足で次へと向かう。二人の男は“声の低い男”と“声の高い男”とだけ呼ばれている。低い男は犯人の声、高い男は被害者の声を担当している。
【7分】
老いた父が、7分ずれた。ぼけたのではない。ずれた。俺が7分前に入っていたトイレに向かって「早く出なさい」という。夕食が終わった7分後に「旨いね」と洗い物をする母の背中に言う。テレビの漫才が終わった7分後に笑い出す。心停止7分後、父は「ありがとう」と言って死んだ。
【困った】
「今晩は小鳥よしおです。あ、すみません、これ裸ですけど、これ衣装なんで…。あの、今夜泊めていただけませんか?えっ、そうですか、ありがとうございますm(_ _ )m。では今からお邪魔します」。結婚するときは面白い人だと思ったけど、毎日こんな帰るメール、ウザいわー。
【ハーレクイン】
恥ずかしいけど、ハーレクインにはまってる。恥ずかしいっていうのは貶めているのではなく、キャラじゃないってこと。だって人殺しだもん、俺。報酬でホテルを転々としながら夜ごとツイッターでつぶやく。「こんな恋してみたい」。「私も」「私も」。オフ会に出られないのが悲しい。