2010/06/22

#twnovel 5月頃

【見合い】
こーん、とししおどしが石を鳴らした。和室の若い二人は、どう会話していいかわからない。「あの」「はい」「いや…」。こーん。「あの」「はい」「僕は、恥ずかしいのですが女性とつきあったことがないんです」「わたしも真面目すぎるって言われてます。今まで、ノンパコなんです」
【二郎】
風呂屋の二郎が煙突のてっぺんに立っている。「おうい、二郎、何しとる」。二郎は仁王立ちのまま風に吹かれている。町内の人々が集まってきた。「おうい、二郎、降りてこい」。二郎は煙突の上から叫んだ。「父ちゃん!母ちゃん!おいら、風呂屋、継ぐよ!」。二郎は面倒な男だった。
【作家】
俺は職人作家。オーダーがあれば何でも書く。本格ミステリから純文学、携帯小説、麒麟の漫才、自伝のゴースト、いしかわじゅんの漫画のゴースト、そうだ、絵だって描く。ネタ枯れやスランプなんて言葉は無縁だ。ただ、ここ数年は新しい仕事は無理だ。広辞苑のゴーストは骨が折れる。
【高い男と低い男】
オレオレ詐欺のニュースが終わった。「お疲れさん。次はTBS?」「はい、でCXです」「君達しかいないからね」。二人の男は頭を下げ、急ぎ足で次へと向かう。二人の男は“声の低い男”と“声の高い男”とだけ呼ばれている。低い男は犯人の声、高い男は被害者の声を担当している。
【7分】
老いた父が、7分ずれた。ぼけたのではない。ずれた。俺が7分前に入っていたトイレに向かって「早く出なさい」という。夕食が終わった7分後に「旨いね」と洗い物をする母の背中に言う。テレビの漫才が終わった7分後に笑い出す。心停止7分後、父は「ありがとう」と言って死んだ。
【困った】
「今晩は小鳥よしおです。あ、すみません、これ裸ですけど、これ衣装なんで…。あの、今夜泊めていただけませんか?えっ、そうですか、ありがとうございますm(_ _ )m。では今からお邪魔します」。結婚するときは面白い人だと思ったけど、毎日こんな帰るメール、ウザいわー。
【ハーレクイン】
恥ずかしいけど、ハーレクインにはまってる。恥ずかしいっていうのは貶めているのではなく、キャラじゃないってこと。だって人殺しだもん、俺。報酬でホテルを転々としながら夜ごとツイッターでつぶやく。「こんな恋してみたい」。「私も」「私も」。オフ会に出られないのが悲しい。